室伏広治選手独占インタビュー

ロンドンオリンピックで見事銅メダルに輝いたハンマー投げの室伏広治選手にお話をお伺いしました。


室伏選手は2005年からサンノゼをトレーニングの拠点として活動されており、ミツワや地元のレストランなどでその姿を見かけられた方もいらっしゃるかもしれません。サンノゼで最終調整を終えてオリンピックに向けて出発する前には、シリコンバレー地方版を通して地元の日本人コミュニティにメッセージも頂いていました。

室伏 広治選手からシリコンバレーの日本人へのメッセージです « シリコンバレー地方版

先月日本で発売された、「超える力(文藝春秋社、Kindle版もあります)」では、自らのハンマー道について、そして陸上競技を通してグローバルな舞台で挑戦し続けてゆく事の重要さについて語られています。

今回はそんな室伏選手に、現在中京大学の准教授として進められている「スポーツバイオメカニクス」について、そして世界を舞台に闘ってゆくための日本人への課題や心構えなどについてお伺いしました。

編集長「本日はお忙しい中お時間を頂きありがとうございます。オリンピック銅メダルおめでとうございます。」

室伏選手

今回のメダルは私にとっても大きな意味があります。東北大震災の被害を受けたみなさんへメダルを届けることができたこと、色々な問題があったなかでも結果を残せた事、そしてサポートしてくれた皆さんに対して良い結果を報告する事ができて良かったです。


ハンマー投げを科学する

ハンマー投げで距離を決めるには3つ要素があって、投擲の初速、投射角と高さで飛距離が決まります。
一番大事なのは初速です。初速をいかにして高めてゆくかが一番難しい所で、これでほとんど距離が決まってしまいます。

次に、秒速で29.5前後で投げ出すハンマーを、角度範囲は34.92度で6mのネットを通さなければならない。この時のハンマーの回転スピード15ラジアンで、これは1秒間に2.4〜2.5回転位のスピードです。このスピートでネットを通して角度範囲に入れるには寸分の狂いも許されません。

練習を繰り返して最適の投擲ができるように試行錯誤をするわけですが、一日で投げられる回数は20〜30本と限られているし、結果をすぐに次の投擲に反映させるのが難しい。そこで、大学ではセンサーなどを使ってリアルタイムに物理的なデータをフィードバックする研究を進めています。

ゴルフでもみんな上達しようとしてフォームを直しますよね。でも、あるフォームにすると本当にヘッドスピードがあがるかというと、それはまた別の問題です。直したフォームが有効に働いているかどうかを物理的なデータでフィードバックする必要があります。そこで目では見えない速度や角度といった物理的な条件をセンサを使って計測して音に変換して伝えるのがこの研究です。


今後の記録更新について

今の世界記録を破るのは簡単なことではありません。すでにこの競技は100年以上続いていますから、当初は回転を増やしたり、投げ方を変えることで記録を飛躍的に伸ばしたりする余地がありましたが、今はもう中身の問題です。体の使い方や見えない所の力の配分など、有効に力がハンマーに働いているかどうかの中身を改善してゆく事が鍵ですね。

記録を伸ばすためにどういうモデルを考えるかによっては、ハンマーと重心の関係などで今後新しい技が出てこないとは限らない。ただ力だけが凄い人が現れたとしても、ハンマーにその力を有効に与えられるかどうかというテクニックと両方を持ち合わせていないと、簡単には記録には繋がりません。

世界で闘うということ

今回のオリンピックでは当日にルールや審判の判定の問題など、色々な事がありましたが、そうした中でも結果を出すことができたのは、日頃から色々な経験を積んで想定外の状況への危機管理ができていた事も大きいと思います。大きな試合で記録を伸ばすためにトレーニングを積むことももちろん大事ですが、若い頃から海外で場数を踏む事はとても大切です。

若い内は簡単に海外の試合にでれる物ではなく、申し込みをしても参加を認めてもらうまでの交渉が大変です。ようやく参加できても、良い宿舎に止まれなかったり、現地に着いてから矢張り出場できなかったりと多くのトラブルがあります。それでも試合に出よう、というハングリーさが大切なのです。国内の試合だけで恵まれた環境ではそういったものは会得することができません。

こうしたことは、頭の柔らかい若い頃からできるだけ沢山の経験をすることでしか得られません。インターナショナルな場で活躍するための基礎作りをできるだけ若いうちから始めることが大事です。


世界で実力を活かすということ

ビジネスの世界にも共通すると思うのですが、素晴らしい技術があるだけでは、海外で勝つことはできませんよね。凄いものを作っても、誰も使わなかったら意味がないでしょう?技術だけを誇れる時代ではないのです。

日本人が今うまくいかないのはそこではないですか?テレビだって携帯電話だって技術は日本のほうが上だったのに、じゃあ何で負けちゃうのかっていうとポイントはそこなんですよ。どんなに良い技術を持っていても、それを活かせなかったらなんの意味もないんです。

だから、日本人は色々な国の人のいるコミュニティのなかで、自分のアイデアをだして、それをプレゼンして、認められられるための力をもっとつけなければいけない。自分のアイデアをプレゼンできるところまで持っていくのも大変だろうし、そこで、どう人を惹きつけ認めてもらうかも重要で大変なことだと思います。大事なことはそこに行くまでのプロセスをしっかり踏んでゆくことですよね。


自分の持つ力を活かす場所を自分で作る

スポーツの世界でも、メダルを取ることをゴールとするならば、確実にメダルを取るにはどうすればよいか。小さな試合での失敗を恐れるのか、それとも失敗に意味を見出して改善してゆくのかということです。オリンピックというチャンスは生涯に何度も巡ってくるものではありません。年齢との闘いもあり、一生に一度かもしれません。そのチャンスで最大限の力を発揮するにはどうすればよいのかというと、失敗を含めてより多くの経験、場数を踏んでゆくことです。

勝負に勝てる実力を持っているという事はもちろん、自分の言うべきことをしっかりと主張する事も重要です。日本人は国際的なルール作りや、問題があったときの対処などの場にまだ十分参加できていないように思います。自分の持つ力を活かす場所を作る、という意味では、国際的な場でしっかりコミュニケーションを取り、意見をアピールできるという事こそ重要な鍵だと思います。

今の日本の選手を見ていると、日本国内で記録を伸ばすことだけに集中し、国際大会に日本の環境をそっくりそのままそのまま持ち込んで闘うやり方がまだ目立ちます。日本の練習環境をそのままオリンピックに持ち込んで、例え成績を残すことができても、それで何が楽しいのかと思ってしまいます。価値観の違いかもしれませんが、他の国の選手や仲間とのコミュニケーションを取らず、開催国の歴史や生活に触れずにメダルをとっても意味が無いと僕は思います。オリンピックという舞台は人間としての深みを作る絶好のチャンスなんです。


全力を出して負けることは恥ずかしいことではない

グランプリでは世界を転戦している各国のトップ選手に加え、開催国からの地元選手の参加があります。開催国枠で参加している選手は、記録では他の選手に劣る場合が多いわけですが、どの国に行っても地元選手は大舞台に参加できることを喜び、全力を出して試合に臨み、たとえ記録は低くても、自分の出した結果に大声を上げて喜びます。

ところが、日本で開かれたグランプリに参加した日本人選手は、投げた後に首をかしげたり、「おかしいな?」と呟いたりして、実力を出していないような素振りをすよく見かけます。全力を出すこと、全力をだして失敗することへの恥ずかしさがあるために、大事な場面で全力を尽くしていないのです。

自分よりレベルの高い選手達の中で、全力を出してもそれに劣る自分を恥ずかしく思ってごまかしてしまうのですね。そうではなくて、今は勝てなくてもいいから全力を出して仲間に入って行こうとしなければ、次が来ないじゃないですか。実力がついたら全力を出そうと思ている人は、実力がつかない。実力が今なくても、力の限りの全力を尽くし切る事を続けているから実力がつくのです。

スポーツに限らず国際社会での日本人は、体裁を気にして大事な場で本来伝えたいことを十分にアピールできないケースが多いではないでしょうか。

これから

今後は自分の経験を活かして、日本人アスリートの国際競技への関わり方などから若い選手を育ててゆきたいと思っています。

また、世界のトップを競う場で闘ってきた経験は、オリンピックやスポーツといった枠組みを超えて、活かすことができると思います。これからは世界で闘う日本のスポーツ選手の育成を始め、オリンピックの東京招致など幅広い面で尽力してゆきたいと思います。



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